ダボス世界経済フォーラムで、日本の安倍首相は、国際貿易への信頼の再構築とWTOの改革を提唱(23/01/2019)

 英語で演説を行い、安倍総理は国際貿易体制への信頼を再構築するよう呼びかた。公正、透明、そして知的財産(IP)の保護に有効な制度であるべきです電子商取引など、データ管理など「データ・ガバナンス」について国際的なルールづくりを議論する枠組みの創設を提唱した。演説の後での会談でシュワブ世界経済フォーラム会長が最後に“Japan is back”と述べたことは、今回のダボス外交は成功したと言えよう。


 安倍総理は2014年以来5年ぶりにダボス会議に出席して英語で演説した。今後「成長をもたらすものは、デジタル・データ」であるとの認識を示し、国境を越えたデータ流通の国際ルールを提唱した。安倍総理の後に演説したドイツのメルケル首相はこの提案を評価すると述べたのが印象的であった。安倍総理は6月に大阪で開催する20カ国・地域(G20)首脳会議では、「大阪トラック」と名付けたデータ・ガバナンスの枠組みを提唱したいとのことである。尚且つ自由貿易を推進する考えを強調したうえで、知的財産権の保護の強化などに向けて、WTO=世界貿易機関の改革に取り組む決意を示した。国際貿易体制については、環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)によって生じる効果が「世界全体を潤す」と説明し、「国際貿易システムに寄せるべき信頼を立て直そう」と呼び掛け、自由貿易体制の維持・強化に取り組む姿勢を強調されグローバルガバナンスの前進を促したのが意義があったと言えよう。また、G20首脳会議では、プラスチックごみによる海洋汚染対策についても、「世界中挙げての努力が必要」という点で「共通の認識をつくりたい」と意欲を示され好感を得た。 演説の後での会談でシュワブ世界経済フォーラム会長が最後に“Japan is back”と述べたことは、今回のダボス外交は成功したと言えよう。(長谷川祐弘)



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Speech by Prime Minister Abe at the World
Economic Forum Annual Meeting
Toward a New Era of “Hope-Driven Economy”


January 23, 2019



 シュワブ教授,たいへんありがとうございます。そうですね,このあいだ来た時から5年が経ちました。戻ってこられたのを,嬉しく存じます。

 2012年の,12月26日,私は,再度,総理大臣になりました。当時,わたくしの国で見たのは,ある高い壁の存在でした。その壁に,たくさんの人が,言葉が書かれているのを見た。日本はもう,終わっている,というわけでした。

 人口は減っている。その人口は,高齢化している。だから成長なんかできない,と,そういう言い分でした。

 絶望の壁,でした。悲観主義の壁,だったのです。

 以来,労働人口は,450万人減少しました。これに対し,わたしたちは「ウィメノミクス」を大いに発動させ,女性が負う負担を軽減しながら,多くの,より多くの女性に,働くことを促しました。

「敗北主義」の敗北

 その結果,いまや,雇用された女性は200万人増えた。繰り返します,新たに付加されるかたちで,200万人の女性労働力が増えたのです。女性の労働参加率は67パーセント,日本では歴代最高で,米国などより高い比率になっています。

 他方,お年を召した方にも働き続けて頂けるようにする私どもの政策があって,65歳以上で元気に働く方も増えました。その増えた数が,200万人です。

 そんな状況だというのに,求職者1人に対して1つ以上の求人企業がある,しかもこれは国中どこでも同じだという,空前の状態になっています。

 就職したいと願う大卒者100人のうち,現に雇われる数たるや,98人。これも記録破りの数字です。

 産業界の対応はというと,5年連続,賃金を今世紀に入って最も高い前年比2パーセント上げるという対応を示してきました。

 こうしたことの結果,私が総理在任中の6年間に日本のGDPは10.9パーセント伸び,4,900億ドルを新たに加えました。

 雇用と所得が増え,それが需要を生んで,さらなる雇用につながるという経済の好循環こそは,長らく待ち望んだものでしたが,いまや根づきつつあります。

 そして成長をさらに長続きさせるため,いまやっていることは,生産性を強化する投資を引き出すことです。
最近,ひとつ新しい法律をこしらえましたが,それによって,向こう5年,34万人もの優秀な働き手に,外国から日本へ来てもらうことになりました。

 では貧富の格差はどうなったでしょう。

 わたくしどもの政権期間中,それ以前一度も下がったことがなかった子供の相対貧困率が,初めて,かつ大きく,下がりました。

 政権発足以前,一人親家庭の子弟で高校を出たあと大学に進学した人の比率は,わずかに24パーセントでした。それが,直近の数字だと,42パーセントです。本年10月以降,教育無償化の施策が実地に移りますから,この数字はいっそう上昇することでしょう。

 わたしたちは,貧富の格差を拡大しているのではなく,縮めているのです。

 絶望は,新たな希望によって拭い去られました。そして皆さん希望こそは,経済成長をもたらす最も大切な要素ではありませんか。高齢化していても,「希望が生み出す経済」として,実にもって成長は可能なのです。ひとつここは厳かに,宣言をしていいでしょうか。日本にまつわる敗北主義は,敗北したのです。

データ・ガバナンスの「大阪トラック」を

 さて,6月には大阪で,本年のG20サミットを開きます。ぜひこれを,未来への楽観主義を取り戻すチャンスといたしましょう。「希望が生み出す経済」の実現は可能なのだと,確かめ合う機会にしようではありませんか。

 常と同様,わたくしたちはたくさんの問題について議論をするわけですが,本日は大きな点を2つ,たったの2つです,とくに取り上げたいと思います。

 最初に,私は本年のG20サミットを,世界的なデータ・ガバナンスが始まった機会として,長く記憶される場といたしたく思います。データ・ガバナンスに焦点を当てて議論するトラック,「大阪トラック」とでも名付けて,この話し合いを,WTOの屋根のもと始めようではありませんか。

 みなさま時は,熟しました。われわれみな承知のとおり,これから何十年というあいだ,わたしたちに成長をもたらすもの,それはデジタル・データです。

 そして何かを始めるなら,今がその好機です。なんといっても,毎日毎日,新たに生まれているデータの量は,250 京バイト。これは一説によれば,米議会図書館が所蔵する活字データ全体の25万倍が,新たに追加されているというのと同じです。1年の遅れは,何光年分もの落後になるでしょう。

 一方では,われわれ自身の個人的データですとか,知的財産を体現したり,国家安全保障上の機密を含んでいたりするデータですとかは,慎重な保護のもとに置かれるべきです。しかしその一方,医療や産業,交通やその他最も有益な,非個人的で匿名のデータは,自由に行き来させ,国境をまたげるように,繰り返しましょう,国境など意識しないように,させなくてはなりません。

 そこで,わたしたちが作り上げるべき体制は, DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)のためのものです。非個人的データについて言っているのは申し上げるまでもありません。

 第四次産業革命,そして同革命がもたらす,わたしたちが「ソサエティ5.0」と呼んでいる社会がメリットを及ぼすのは,わたしたち個人です。巨大で,資本集約型の産業ではありません。  ソサエティ5.0にあっては,もはや資本ではなく,データがあらゆるものを結んで,動かします。富の格差も,埋めていきます。

 医療や,小学校から職業レベルまでの教育は,サブ・サハラ地域の小さな村落にも届くようになります。学校に通うのを一度はあきらめた少女も,地元の村を越えて,可能性は青天井であるような, 広い地平を目にすることになる。

 わたしたちの課題は,もはや明らか。データをして,偉大な「格差バスター」にしないといけないのです。

 AI,IoT,そしてロボティクス。データが動かすソサエティ5.0は,都市に新たな現実をもたらすでしょう。私たちの都市は,ありと,あらゆる人たちにとって,もっとはるかに住みやすいものになります。

 5 年前の私の約束は,いまでも同じです。古くなった規制を変えるため,わたしはわたし自身をドリルの刃として,突き抜け続けます。

 成長のエンジンは,思うにつけ最早ガソリンによってではなく,ますますもってデジタル・データで回っているのです。

 よくわたしたち,WTOの改革が必要だと言いますが,ともすると,いまだに農産品ですとか,物品の世界で,つまり距離や国境が重要になる世界で,わたしたちは考えています。

 新たな現実とは,データが,ものみなすべてを動かして,わたしたちの新しい経済にとってDFFTが,つまりData Free Flow with Trustが最重要の課題となるような状態のことですが,そこには,わたしたちはまだ追いついていないわけです。

 それにしても,ある意味,デジャブの感じがします。ジョン・D・ロックフェラーがスタンダード・オイルを大きくしていたころのこと,ガソリンの使い道を,だれも知りませんでした。そこで,近くのカイヤホガ川に捨てたというのですが,そのガソリンは何度も火事を起こしています。

 われわれ人類は,ガソリンの価値を知るに至るまで,30年とか,40年もかかっています。それが,20世紀も20年を過ぎようというころになると,ガソリンは自動車を走らせ,飛行機を飛ばせていたわけです。

 データについても,同じだとはいえませんか。わたしたちがインターネットを壮大な規模で使うようになったのは,1995年ごろです。でも,21世紀も20年を数えようというころになって,データが,われわれの経済を回している事実にようやく気がつきました。

 この際,「大阪トラック」を始めて,それをとても速いトラックとする。

 そのための努力は,わたしたちみんなが共にできるといい,米国,欧州,日本,中国,インドや,それに大きな飛躍を続けているアフリカ諸国が,努力とともに成功を共有し,それでもって,WTO に新風が吹き込まれるというふうになればと願います。

気候変動に非連続イノベーションを

 大阪では,で,みなさま,ここからが第二のポイントですが,わたくしは,気候変動に立ち向かう上において,イノベーションがなせること,またイノベーションがどれほど大事かということに,おおいに光を当てたいと考えています。 それと申しますのも,いまから大切なことを言いたいのですが,いま必要とされているのは,「非連続」だからです。

 この際想起いたしますと,IPCCは,最近の「1.5度報告」で,こう言っています。2050年をメドとして,人間活動が生む二酸化炭素の量は,差し引きゼロになるべきだ,つまり,今後もなお残る二酸化炭素の排出は,空気中にあるCO2を取り除くことによって,差し引き帳尻が合うようにしないといけないというのです。

 いまや,手遅れになる前に,より多く,さらに多くの,非連続的イノベーションを導き入れなくてはなりません。

 二酸化炭素というのは,みなさま,事と次第によっては,いちばんすぐれた,しかももっとも手に入れやすい,多くの用途に適した資源になるかもしれません。

 たとえば人工光合成です。これにとってカギを握るのが,光触媒の発見でしたが,手掛けたのは日本の科学者で,藤嶋昭という人です。

 メタネーションというと年季の入った技術ですが,CO2除去との関連で,新たな脚光を浴びています。

 いまこそCCUを,つまり炭素吸着に「加え」,その「活用」を,考えるときなのです。

 それから水素です。水素は,一次エネルギーであるだけでなく,エネルギーの「キャリア」でもあって,むしろそちらの方が重要なくらいですが,価格が安く,かつ,手に入れやすくならないといけません。

 わが政府は, 水素の製造コストを2050年までに今の1割以下に下げる。それで,天然ガスよりも割安にする,ということを目指す考えです。

 この先,わたくしどもはG20諸国から科学, 技術のリーダーたちを日本へお呼びし,イノベーションに,力を合わせて弾みをつけたいものだと思っております。

 これもまた,皆さまにお話しできますのを喜びとするところでありますが,わが政府は昨年の12月,世界に先駆けて,TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿うかたちでの,ガイダンスを明らかにいたしました。

 世界規模で,ESG投資が増えており,過去5年の間に,その規模は9兆ドルあまりも増加しました。

 すでに巨額ではあります。しかし, 環境イノベーションのためには,いま一層,おカネが回るようにしなくてはなりません。このたび作成したガイダンスは,より多くの会社に,非連続イノベーションのため,一層多額の資金を使ってくれるよう促すものとなるでしょう。

 緑の地球,青い海のため投資をするといいますと,かつてはコストと認識されました。いまではこれが,成長の誘因です。炭素をなくすこと,利益を得ることは,クルマの両輪になれる。

 わたくしども政策立案者は,そういう状態を現出させる責務を負っている。このことも,今年,大阪で強調してまいります。

 太平洋の,最も深いところ。そんな場所でいま,あるとんでもないことが進行中です。

 太平洋の,底。そこにいる小さな甲殻類の体内から,PCBが高い濃度で見つかりました。原因を,マイクロプラスティックに求める向きがあります。

 わたくしはやはり大阪で,海に流れ込むプラスティックを増やしてはいけない,減らすんだというその決意において,世界中挙げての努力が必要であるという点に,共通の認識をつくりたいものだと思っています。経済活動を制約する必要などなく,ここでも求められているのはイノベーションなのです。そのため大阪でジャンプスタートを切って,世界全体の行動へ向かっていきましょう。

日本が守る国際貿易体制

 ここからが,第三の,かつ最後の点。それは,日本は何を重視するかということです。

 日本は,フリーで,開かれていて,ルールに基づいた国際秩序を保全すべく決意を固めるとともに,その強化のため,打ち込みたいと考えています。

 そこでみなさん,私は大きな喜びとし,また誇りとするところでありますが, 2018 年12月30日をもって,わたくしどもは,ついに,TPP11を発効させるところにこぎつけました。

 そればかりではありません。もうひとつ,やはり喜び,誇りとともに,発表いたしたいことがあります。

 2月1日,といえばもうすぐそこですが,日EUの経済連携協定が,これまた発効するのです。

 これら2つのメガディールによって生じるスケール・メリット,そして効率は,世界全体を潤すことでしょう。

 この際皆さまに, 国際貿易システムに寄せるべき信頼を,立て直しませんかと訴えるものであります。

 国際貿易システムとは,公正,透明で,知的財産権の保護や,電子商取引, 政府調達といった分野に効果をもつものとなるべきなのです。

 TPP11と,日EU経済連携協定は,どちらとも,まさしくそこを狙っています。始めるなら,ここからでしょう。

 米,欧,日本は力を合わせ,WTOの改革に,なかんずく政府補助金ルールの改革を主導してまいりましょう。

 そして大阪トラックは,言うまでもありませんが, データ・ドリブン経済の時代に,WTOの意味合いを高めていこうとするものなのです。

日本に訪れる新しい時代

 皆さまわたくしは冒頭で,成長をつくりだすうえで,なによりも大切なのは希望だと申しました。

 希望とは,明日を待ち望むことです。翌年を,そのまた翌年を,そして10 年,20年先を期待することです。

 わたくしの国は,幸運に恵まれました。今後10年,わたくしどもが開きますイベントは,本年のG20,ラグビー・ワールドカップ,明年のオリンピックとパラリンピック,2025年の大阪・関西万博に及びます。

 最も大切なこととして,本年は,200 年ぶりに, わたくしどもの天皇陛下がご譲位になり,皇位の継承が行われます。

 新しい時代の,夜明けです。

 再び強く,また活力を得た日本は,みなさま方の祝福のもと,開かれて,民主主義であって,かつ法を尊ぶ国々の最も有力な一角を占めながら,世界の平和と繁栄に,力を尽くしてまいります。

 ありがとうございました。

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